Vol.4 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の早期診断と治療 Vol.4 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の早期診断と治療
EGPAにおけるIVIGの有用性
EGPA治療の基本はステロイドで、必要に応じて免疫抑制剤が併用されますが、ステロイドおよび免疫抑制剤を投与しても末梢神経障害が残存するケースは実臨床でもよく経験します。そこでステロイド、もしくはステロイド+免疫抑制剤に治療抵抗性を示す末梢神経障害を有するEGPA患者15例に対して、既治療併用下でIVIG 400mg/kg/日×5日間の投与を行ったところ、15例中13例にMMTの改善が認められ、手足の皮膚温は測定した10例全例で上昇しました16)。その後、免疫グロブリン製剤・献血ベニロン-Iの治験において(試験概要はこちら17)、主要評価項目である献血ベニロン-I投与直前から投与開始2週間後のMMTスコア合計変化量(平均値±標準偏差)は7.13±9.76と有意な増加が認められ(p=0.002、vs投与直前、対応のあるt検定)(図3)、またMMTスコア3以下の筋の箇所数の変化量(平均値±標準偏差)が-2.7±4.0との有意な減少が認められました(p=0.004、vs投与直前、対応のあるt検定)。その他Modified Barthel indexなどの結果より、「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症における神経障害の改善(ステロイド剤が効果不十分な場合に限る)」に対して保険承認となりました。
(図3)献血ベニロン-Ⅰ投与直前からのMMTスコア合計

副作用は14 例21 件認められました。副作用の内訳は、頭痛、ALT増加3 例(13.0%)、倦怠感2 例(8.7%)、紅斑、紫斑、胸痛、注射部位そう痒感、末梢性浮腫、発熱、注射部位腫脹、AST 増加、LDH 増加、γ- GTP 増加、血小板数減少及び白血球数減少が各1 例(4.3%)でした。死亡、重篤な副作用、投与中止に至った副作用は認められませんでした。

また、IVIGを施行したEGPA症例のうち、心病変を有する5症例に対するIVIGの影響(ejection fraction(EF)、心縦隔比(H/M)、washout rate)についても検討16)を行っています*(結果はこちら)。  
*EGPAに対する適応を有する免疫グロブリン製剤・献血ベニロン-Iの効能・効果は「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症における神経障害の改善(ステロイド剤が効果不十分な場合に限る)」です。
免疫学的側面から考察されるIVIGの有用性と課題
IVIG施行の有無別に長期的な観察を行ったところ18)、IVIG施行群ではIVIG終了後3ヶ月からCD4CD25T細胞数が増加し、2年程度維持されていました。2年間後のプレドニゾロン維持量は、IVIG施行群でIVIG無施行群に比べて低値であることも示され、IVIGがステロイド減量に影響する可能性が示唆されます。
一方、IVIGは、ステロイド、免疫抑制剤による治療を行わず、初期治療として施行した場合には無効となります。また、ステロイド単独よりもステロイドと免疫抑制剤併用でより効果が得られるということもあり、初回治療をどのタイミングで行うのか、追加投与の投与間隔、投与回数なども課題となっています。この点の参考として、寛解導入までにIVIGを1回施行した群と複数回施行した群との比較では19)、初回IVIGから1カ月後のFOXP3陽性Treg細胞頻度は、1回施行群で上昇し、複数回施行群では有意な上昇は認められませんでした。また、初回IVIGから寛解導入までの期間とCD4CD25T細胞数には正の相関が認められており18)、初回IVIGで十分な効果が得られない場合には繰り返し施行することで効果が得られる可能性が示唆されます†。
†EGPAに対する適応を有する免疫グロブリン製剤・献血ベニロン-Iの「7. 用法・用量に関連する注意」は以下のとおりです。
〈好酸球性多発血管炎性肉芽腫症における神経障害の改善〉
献血ベニロン-I電子添文 7.用法・用量に関連する注意(抜粋)
7.6 本剤投与後4週間は再投与を行わないこと。4週間以内に再投与した場合の有効性及び安全性は検討されていない。
7.7 本剤投与後に明らかな臨床症状の悪化や新たな神経症状の発現等が認められた場合には、治療上の有益性と危険性を十分に考慮した上で、本剤の再投与を判断すること。本剤を再投与した場合の有効性及び安全性は確立していない。
生物学的製剤とIVIG
最近、EGPAの再燃抑制作用が認められたメポリズマブ20)が治療の選択肢に加わりましたが、治療の位置づけについては現時点では明確にされていません。われわれの検討ではメポリズマブ著効群では診断時の好酸球数が多いことのほかに、メポリズマブ投与前の血清IgG値が高いということがわかっており21)、免疫機能が保たれているケースで治療薬のレスポンスが良好であることが示唆されます。また、メポリズマブ既投与例においてIVIGの施行初日から効果を実感するケースを多く経験しており、ステロイドや免疫抑制剤と並んで、IVIG施行前に実施しておくとよい治療と考えています。
EGPAの予後
かつてEGPAは、GPAおよびMPAと比べると予後良好とされてきましたが、予後予測因子・Five-Factor Score(FFS) が2点以上の場合にはいずれの血管炎も予後不良であり、特に心病変はEGPA長期予後を不良にすることが欧州から報告されています22)。しかし、われわれの検討では、EGPAの再燃に影響する因子として消化管病変、心病変が検出された一方、心病変の有無によって生存率に差は認められませんでした23)。海外ではIVIGが血管炎全体の5%前後しか使用されていないのに対し、われわれの検討では再燃例の約9割、全体で約6割の患者さんにIVIGが施行されており、IVIGが心病変を有するEGPAの長期予後に影響することを示唆する結果となりました。
まとめ(表2)
初期のEGPAは症状が常に出現しているわけではないため、特にステロイド服用例などでは診断が非常に難しくなります。しかしながら、喘息の経過中にリスクファクターのある症例、あるいは先行症状がある症例では慎重な経過の追跡により早期診断が可能になると考えられます。臨床診断の確定後は、早期に治療を開始しますが、メポリズマブの位置づけに関しては今後の検討が必要であること、また、心病変を有するEGPAに対してはIVIGが予後に影響する可能性などが示されており、これらの治療薬をオプションとして検討することで、適切なEGPAの治療につなげていただければと思います。
  1. EGPAの初期の診断は難しいことがある。
  2. 喘息経過中にリスクファクターのある症例・先行症状がある症例は慎重に経過を追跡する。
  3. 臨床症状が確定したら早期に治療を開始し、重症例は早期の免疫抑制剤導入を検討する。
  4. Mepolizumabの治療介入の位置付けには今後のさらなる検討が必要である。
  5. 心病変を有するEGPAに対してIVIGは予後に影響のある可能性がある。

提供:国立病院機構横浜医療センター 呼吸器内科 部長 釣木澤 尚実 先生

座長コメント
呼吸器内科のお立場からのEGPAの見極めに関する有用なポイント、EGPAにおいてTregが増えることの重要性、あるいはIL-33と血管炎との関連性とともに、EGPAが自然免疫も関係した非常に複雑な免疫学的バックグラウンドを有していることなど、非常に興味深い知見をお示しいただきました。IVIGの作用機序については明らかになっていませんが、Tregあるいは細胞性免疫に影響して病態の改善に関与している可能性も示唆されたと思います。まだ予後良好とは言い切れないEGPAにおいて、重要な病変である心病変および消化管病変に注意を払いつつ診療を行っていくことが重要と感じました。
質疑応答
  • Q:メポリズマブとIVIGの使い分けについても具体的に教えてください。
  • 釣木澤先生:IVIGのEGPAに対する適応は「ステロイド剤が効果不十分な場合の神経障害の改善」ですので、既存治療で神経症状が改善していないケースではIVIGが優先されると思います。メポリズマブは、ステロイドおよび免疫抑制剤でも症状が残存する場合に使用していますが、私自身は、ある程度急性期の炎症が終わった後、外来治療ができるようになってから導入しています。
  • Q:ステロイドや免疫抑制剤、メポリズマブなどでも症状の十分な改善が得られない症例においてIVIGの効果が認められる場合、どのような機序が考えられるのでしょうか。
  • 釣木澤先生:IVIG施行により皮膚温が上昇したことから、血管拡張による血流促進が機序の一つとして推測されます。一方、IVIG施行直後から末梢神経障害の改善を認める患者さんも経験しており、このことからは障害の少ない神経の伝達速度を上げるといった機序が推測されます。
  • Q:IVIGはどのような神経障害に有効でしょうか。
  • 釣木澤先生:私自身は運動障害の方が改善が得られやすい印象を持っています。感覚障害にも効果は認められますが、後遺症としての感覚障害に関しては十分な改善が得られないという印象です。
  • 天野先生:やはり、治療の最初のステップはステロイドあるいはシクロホスファミドということですね。
  • Q:最後に、喘息で生物学的製剤を使用している症例からEGPAを発症することはあるのでしょうか。
  • 釣木澤先生:論文では複数報告されています。生物学的製剤によって喘息が改善すると経口ステロイドが減量されますので、これが要因で発症したケースが一番多いのではないかと思います。
  • 天野先生:ステロイドの不用意な減量には注意が必要ということですね。本日は貴重なご講演をありがとうございました。
参考文献
16) Tsurikisawa N, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2004; 92: 80-87.
17) Koike H, et al. J Neurol. 2015; 262: 752-759.
18) Tsurikisawa N, et al. J Rheumatol. 2012; 39: 1019-1025.
19) Tsurikisawa N, et al. Clin Transl Allergy. 2014; 4: 38.
20) Wechsler ME, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1921-1932.
21) Tsurikisawa N, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2021 ;182: 744-756.
22) Guillevin L, et al. Medicine (Baltimore). 2011; 90: 19-27.
23) Tsurikisawa N, et al. J Rheumatol. 2017; 44: 1206-1215.
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