Vol.2 好中球細胞外トラップ (NETs)の関与

ANCA関連血管炎における好中球細胞外トラップ(NETs)の関与

好中球の細胞質に対する自己抗体・抗好中球細胞質抗体(ANCA)は、ANCA関連血管炎の疾患マーカーとなるだけでなく、ANCA自体に病原性があることがわかっており、近年、ANCAによる好中球細胞外トラップ(NETs)の形成誘導が血管炎発症に関与していることが明らかになってきました。NETsとはどのようなものなのか、そしてANCA関連血管炎へのNETsの関与について、北海道大学大学院保健科学研究院 病態解析学分野 石津 明洋 先生にご解説いただきました。

解説
北海道大学大学院保健科学研究院 病態解析学分野 教授 石津 明洋 先生
好中球細胞外トラップ(NETs)とは?
好中球には、従前からアポトーシスやネクローシスなどの細胞死が観察されていましたが、2004年、Brinkmannらによって感染刺激により活性化された好中球が網状の構造物を細胞外に放出して細胞死に至ることが報告されました1)。この網状構造物は、DNAと好中球細胞質内の様々な殺菌タンパク、例えば、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、プロテイナーゼ3(PR3)、好中球エラスターゼ、バクテリア透過性増強タンパク(BPI)、ラクトフェリンなどが混ぜ合わされたもので、好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)と呼ばれています(図1)
NETsの意義は、①細菌の物理的な封じ込めの促進、②殺菌タンパクの局所濃度上昇による効率的な殺菌、③周囲組織の損傷を最小限にとどめることとされており1)、NETsが病原性微生物を捕獲することで、好中球は細胞死に至った後も効率よく殺菌を行うことが可能となるため、NETsは生体防御に不可欠な自然免疫システムの一つといえます。
図1 好中球細胞外トラップ(NETs)
病原微生物を認識した好中球は活性化され、MPOなどの殺菌タンパクで装飾されたDNAを放出する。
提供:北海道大学大学院保健科学研究院 病態解析学分野 石津 明洋 先生
NETs形成のメカニズム
NETsは、病原微生物由来リポポリサッカライドなどの好中球への結合がトリガーとなって、好中球内におけるNADPHオキシダーゼによる活性酸素の産生 → 活性酸素によるヒストン修飾酵素PAD4の核内移行促進 → PAD4によってDNAを巻き付けているヒストンがシトルリン化 → DNAが脱凝集することによって形成されると考えられています2,3)
NETsと血管炎
NETsは生体防御において重要な役割を果たす一方で、過剰なNETs形成が血栓形成や血管内皮細胞障害の原因となることが報告されています4,5)。Phorbol myristate acetate(PMA)によってヒト好中球から誘導したNETsをヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に添加・培養したわれわれの検討においても、NETsが多いほど内皮細胞の生存率は低く、NETsが血管内皮細胞を障害することが示唆されています。
図2  ANCAによって引き起こされる血管炎の発症機序(推定)
Ⅲ 病態, ANCA関連血管炎診療ガイドライン 2017. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業) 難治性血管炎に関する調査研究班 有村義宏, 難治性腎疾患に関する調査研究班 丸山彰一, びまん性肺疾患に関する調査研究班 本間 栄 編. p.69, 診断と治療社, 東京, 2017.
ANCA関連血管炎とNETsの関連―NETsによるANCA産生機序
ANCAによる血管炎誘発の機序としては、ANCAが好中球の過剰な活性化を招き、サイトカインの異常産生を誘導することで血管内皮細胞障害が生じると提唱されてきましたが6)、近年、ANCAによる好中球の過剰な活性化には、NETs形成によるANCA産生が一因となっていることが明らかになってきました(図2)7,8)
われわれは、抗甲状腺薬のプロピルチオウラシル(PTU)の投与により約30%の患者にMPO-ANCA(後述)が産生されるという報告をもとに9)、PTU投与により誘導されるMPO-ANCAの産生機序について動物モデルを用いて検討を行いました。NETsは血管障害性を有するため体内では厳密に制御されており、主にDNase Ⅰによって分解されますが10)、PTUを投与するとDNase Ⅰ抵抗性の異常なNETsが形成されます。この異常なNETsが生体内に残存すると、NETsに含まれるMPOに対しての免疫寛容が破綻をきたし、その結果、MPO-ANCAが産生されることが実験的に証明されました(図3)11)
ANCA関連血管炎の多くはPTUとは無関係に発症しますが、何らかの遺伝的背景を有する患者では、PTUと同様にNETsの形成や分解に異常をもたらす種々の環境要因が付加されることでANCAが産生され、ANCA関連血管炎の発症が誘導されると考えられます12)
図3 MPO-ANCA関連血管炎の動物モデル
提供:北海道大学大学院保健科学研究院 病態解析学分野 石津 明洋 先生
ANCA関連血管炎における新規自己抗体
ANCA関連血管炎に関するトピックスとして、新規の自己抗体にも触れておきたいと思います。ANCA対応抗原としてよく知られているのは好中球細胞質中のMPOとPR3で、対応抗原に応じてそれぞれMPO-ANCA、PR3-ANCAと呼ばれていますが、これらのほかにも様々な抗原に対する自己抗体がANCAとして報告されてきています。

●Lysosomal membrane-associated protein 2(LAMP-2)
LAMP-2に対するANCAはpauci-immune型の分節性壊死性糸球体腎炎や皮膚血管炎の原因となることが報告されています13,14)。LAMP-2のエピトープとグラム陰性菌のFimHと呼ばれる構造のエピトープは相同性を示すことから、ANCA関連血管炎の病因としての細菌感染と、細菌に対する抗体のLAMP-2への交差反応が注目されています。

●モエシン
モエシンは、マウスMPO-ANCAが交差反応を示す抗原として同定された分子です15)。ANCA関連血管炎患者の中には抗モエシン抗体陽性を示す患者が存在し、疾患活動性との関連について解析が進められています16)

●ラクトフェリン
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)患者の約20%に抗ラクトフェリン抗体が検出されることが報告されています17)。ラクトフェリンはNETs形成を抑制することが知られており18)、抗ラクトフェリン抗体がNETs形成促進因子として作用することでEGPAの活動性に関与している可能性が考えられます。
まとめ
NETsは感染防御に不可欠な自然免疫機構である一方、生体損傷のリスクも有しています。NETsによる直接的な血管障害に加えて、MPO-ANCAの産生という形でANCA関連血管炎の発症に関与しており、MPO-ANCA産生がさらなるNETs形成を誘導することで、NETsとANCAの悪循環が形成されると考えられます。今後、新たな治療法としてNETs-ANCA悪循環を断つ分子標的治療の開発に期待が寄せられます。

1) Brinkmann V, et al. Science 2004; 303: 1532-1535.
2) Remijsen Q, et al. Cell Death Differ 2011; 18: 581-588.
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4) Döring Y, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2013; 33: 1735-1736.
5) Grayson PC, et al. J Leukoc Biol 2016; 99: 253-264.
6) Csernok E. Autoimmun Rev 2003; 2: 158-164.
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10) Hakkim A, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2010; 107: 9813-9818.
11) Nakazawa D, et al. Arthritis Rheum 2012; 64: 3779-3787.
12) Nakazawa D, et al. Clin Exp Nephrol 2013; 17: 631-633.
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15) Nagao T, et al. Nephrol Dial Transplant 2011; 26: 2752-2760.
16) Suzuki K, et al. Nephrol Dial Transplant 2014; 29: 1168-1177.
17) Shida H, et al. Front Immunol 2016; 7: 636.
18) Okubo K, et al. EBioMedicine 2016; 10: 204-215.
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