ANCA関連血管炎による腎病変(ANCA関連腎炎)
監修:有村義宏先生(杏林大学医学部第一内科 教授)

ANCA関連腎炎の疾患概念について教えてください。

 ― ANCA関連腎炎とは、ANCA関連血管炎にみられる腎炎を指します。ANCA関連腎炎は、好中球細胞質にあるミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase: MPO)に対する抗体(MPO-ANCA)関連腎炎とプロテイネース3(proteinase 3: PR3)に対する抗体(PR3-ANCA)関連腎炎の2つに分けられます。わが国のANCA関連腎炎のほとんどは、MPO-ANCA関連腎炎です(MPO-ANCA;PR3-ANCA ;10~12:1)。MPO-ANCA関連腎炎は、主に顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis: MPA)に見られる腎炎で、一部Churg-Strauss症候群や多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis: GPA;以前Wegener肉芽腫症と呼称)に見られます。一方、PR3-ANCA関連腎炎のほとんどはGPAです。

ANCA関連腎炎の臨床症状についてお聞かせください。

 ANCA関連腎炎は、腎炎単独の場合(腎限局型)と腎以外の臓器の血管炎を伴う場合があります。
 腎炎単独の場合には、初期には蛋白尿、顕微鏡的血尿などの腎炎を示す尿検査異常のみです。しかし、注意しなければならないのは、ANCA関連腎炎では高頻度に急速進行性腎炎症候群(rapidly progressive glomerulonephritis: RPGN)を呈することです。RPGNとは、蛋白尿、血尿(ほとんどが顕微鏡的血尿)、顆粒円柱などの腎炎を示す尿所見と共に、数週から数か月で急速に腎機能が低下する症候群です。ANCA関連腎炎によるRPGNの多くは無治療であれば、尿毒症を認めるようになり透析治療が必要になります。
 腎外の血管炎を伴う場合には、皮膚、筋肉・関節、眼、耳、上気道、肺、消化管、神経系、上気道など多臓器障害の症状を認めます。臓器障害の種類や数、重症度は症例により異なりますが、発熱、体重減少などの全身症状とともに、皮疹(紫斑、紅斑、潰瘍)、筋肉痛、関節痛、目の充血(強膜炎、結膜炎、紅彩炎)、複視、しびれ・運動障害(末梢神経炎)、息切れ・血痰(間質性肺炎、肺胞出血)、血便(消化管出血)などが見られます。

ANCA関連腎炎の鑑別診断の手順について教えてください。

 尿検査で腎炎を示す所見(蛋白尿、血尿、顆粒円柱など)を認めた場合には、腎炎の原疾患の鑑別を行います。腎炎は、腎炎だけのもの(一次性腎炎)と全身性疾患などにみられる腎炎(二次性腎炎)に分けられます。一次性腎疾患は、腎炎でみられる臨床症候群である程度鑑別が可能です。腎炎で認められる症候群は、①RPGN、②急性腎炎症候群、③慢性腎炎症候群、④反復性または持続性血尿症候群、⑤ネフローゼ症候群の5つに分けられます。典型的なANCA関連腎炎の臨床症候群はRPGNです。また低頻度ですが急性腎炎症候群、慢性腎炎症候群、反復性または持続性血尿症候群を呈することもあります。しかし、ネフローゼ症候群を生ずるのは非常に稀です。ANCA陽性でネフローゼ症候群があれば、ANCA関連腎炎に膜性腎炎など他の腎炎の合併を疑います。二次性腎炎では、各疾患に特徴的な臨床所見(SLE:蝶型紅斑、レイノー現象など、紫斑病性腎症:腹痛、多関節痛、紫斑、Goodpasture症候群:血痰、ANCA関連腎炎:結膜充血、紫斑、しびれなど)のチェックと共に、抗核抗体、MPO-ANCA、PR3-ANCA、抗糸球体基底膜抗体、補体などを測定します。他の疾患がなく、ANCA陽性の腎炎を示す尿異常であれば、ANCA関連腎炎が強く疑われます。なお、PR3-ANCA陽性の場合には感染症に伴う腎炎、特に感染性心内膜炎に伴う腎炎の鑑別は重要です。
 ANCA関連腎炎が考えられたら、ANCA関連血管炎内の3疾患の鑑別を行います。診断手順としては、喘息の既往、好酸球の増多、末梢神経障害があればCSSと診断できます。次に上気道・下気道に肉芽腫性病変があればGPAです。以上がなければ、MPAと診断します。これはWattsによる分類手順です(図1)。この手順に従うと我が国のGPAの約半数はMPO-ANCA陽性です。
 ANCA関連腎炎かどうかは腎生検を施行すると、より確実になります。光学顕微鏡による観察では、ANCA関連腎炎の典型像は壊死性半月体形成性腎炎です。病変が軽度であれば、巣状・分節性壊死性糸球体腎炎ですが、病変が高度になるとボウマン腔に細胞や線維成分の増加を認め壊死性半月体形成性腎炎を呈します(図2)。この壊死性半月体形成性腎炎は螢光抗体法(免疫グロブリン染色)による糸球体染色パターンにより以下の3つに分類されます(図3)。一つは、糸球体係蹄壁が線状に染色される型(線状型)、これには抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane: GBM)抗体の関与があり、Goodpasture症候群などの抗GBM抗体腎炎が疑われます。また、糸球体係蹄壁が顆粒状に染色される時(顆粒状型)は、免疫複合体の関与があり、全身性エリテマトーデス、紫斑病性腎炎などの免疫複合体型腎炎を考えます。もうひとつの染色パターンはpauci-immune(微量免疫沈着型)で、免疫グロブリンは糸球体の一部にのみ染色を認めたり、全く染色されないこともあります。このpauci-immune 型のほとんどは、ANCA関連腎炎です。図4に壊死性糸球体腎炎からみたANCA関連腎炎の鑑別診断図を示します。


 
A: 巣状・分節性壊死性糸球体腎炎;糸球体毛細血管壁の一部が断裂し、軽度の管外増殖(半月体)を認める。(PASM-HE染色)
B 壊死性半月体形成性腎炎(糸球体毛細血管壁があちこちで断裂し、全周性に半月体が形成されている)(PASM-HE染色)
C:壊死性半月体形成性腎炎;係蹄壁の壊死によりフィブリンが析出している(Masson-野口染色)

(有村義宏;顕微鏡的多発血管炎. 日本医師会雑誌140: 2305~2309, 2011.)
(有村義宏:糸球体疾患 壊死性糸球体腎炎.Source:日本臨床別冊腎臓症候群(上) Page65-69:2012)
(有村義宏:糸球体疾患 壊死性糸球体腎炎.Source:日本臨床別冊腎臓症候群(上) Page65-69:2012:一部改変)

早期発見のポイントについてお聞かせください。

 特に高齢者で尿検査で初めて蛋白尿や顕微鏡的血尿が認められたら、ANCA関連腎炎を疑います。まず、血清クレアチニン、eGFR 、そしてANCAを測定します。また、ANCA関連血管炎による腎臓以外の他臓器障害がないかどうか、発熱、間質性肺炎、紫斑、結膜充血、しびれの有無などを調べていくことが早期発見のポイントになります。
 ANCA関連腎炎は、発疹や皮疹など腎臓以外の血管症状が前面に出ているほうが腎炎の比較的初期状態で見つかることが多く、腎障害のみの場合には、来院時に既に腎機能が低下がかなり進行していて、時には透析導入が必要ということもあります。尚、来院時に腎炎のみと考えられても、実は以前に目が赤いことがあった、しびれがあった、皮疹があったなど血管炎による病歴を認めることがあります。また、来院時身体所見で腹部や下肢に皮疹や皮下結節を認めることもあります、ANCA関連腎炎では病歴聴取、詳細な身体所見の診察が非常に重要です。
 ― ANCA関連腎炎の予後は年々着実に改善傾向にありますが(図5)、依然として治療開始時の血清クレアチニン、透析導入率、死亡率は高く、いかに早期に発見するかは大きな課題です。ANCA関連腎炎の発症頻度が最も多いMPAの平均年齢は68歳で、高齢者に多くみられます。自治体によっては、高齢者健診項目から尿潜血や血清クレアチニン測定を省いているところがあります。ANCA関連腎炎の早期発見には、尿潜血や血清クレアチニンの測定は必須であり、健診項目にこれらを組み入れるなどの対策も必要です。

 
(有村義宏ほか:ANCA関連腎炎.日本内科学会雑誌2011; 1254-1261)

ANCA関連腎炎の基本的治療法、感染症対策や再燃対策について教えてください。

― 寛解導入治療の基本はパルス治療を含むステロイド治療です。血管炎が重症の場合には免疫抑制薬の併用を行い、さらに血漿交換療法を併用することもあります。強力な免疫抑制薬は感染症や合併症などを起こしやすいので、腎障害が高度な場合や高齢者といった場合には特に注意が必要です。日本腎臓学会のANCA陽性RPGNの治療指針では、年齢や重症度をみて免疫抑制療法の程度を決めています(『ANCAの概要:RPGNの治療』の項を参照)
 感染症対策については、基本的にST合剤を併用しながら免疫抑制療法を施行します。特に血管炎がある程度抑えられた後に発熱し、CRPが陽性化する場合には感染症の疑いが強くなりますし、白血球数4,000/µL以下、免疫グロブリンの低下などは感染症のリスクになります。免疫抑制療法中は感染症を常に念頭に置きながら治療していくことが重要です。
 MPAの場合は約30%が再燃をきたします。再燃のリスクとしては急激なステロイドの減量が考えられています。また、再燃の予知としては陰性化していたANCAが再陽性化し、持続的に上昇を示す場合には再燃の危険性が高まっていると考えて注意します(図6)。
 再燃を早期に発見できればステロイドを少し増量する程度でよいですし、再燃症状が重ければ初回寛解導入療法と同様の強力な免疫抑制療法が必要です。再燃の早期発見には、定期的な尿検査、ANCAの測定が重要となります。なお、ANCAが陰性での再燃もあるので、ANCA陰性でも再燃の可能性は否定できません。ANCA陰性の再燃では、真にANCAが陰性なのか、ANCA測定系の改良が必要かについて検討が行われています。
 
(有村義宏:ANCA関連血管炎・腎炎治療と腎予後.リウマチ科2010;314-321)

Churg-Strauss症候群に対するIVIG療法のトピックスについてお聞かせください。

― IVIG療法のトピックスとしては、IVIG療法がChurg-Strauss症候群のステロイド抵抗性の末梢神経障害に対して有効性が確認され保険適用になったことです。さらに、注目されるのは自験例のChurg-Strauss症候群で、急性期だけでなく長年寛解時期にありながらも持続するステロイド抵抗性神経障害にIVIG療法が一定の効果を認めたことです。末梢神経障害がある患者さんは、麻痺や痺れ、痛みのためにQOLがかなり低下しています。この神経障害がIVIG療法でQOLの改善が得られることで大変感謝されます。したがって神経障害で長年悩んでいる患者さんに対してもIVIG療法は、一度は使ってみる価値のある治療法と思います。その際に、長年続いてきた末梢神経障害が完全には消失せず、現在10の自覚症状が8とか7程度の改善にとどまる場合もあるということを最初にきちんと説明しておくことも必要です。ただし、このようなわずかな程度の改善でも長年末梢神経障害に悩んできた患者さんのQOL改善には非常に役立ちます。    
 一方、末梢神経障害は、Churg-Strauss症候群だけでなくANCA関連血管炎の中では最も高頻度であるMPAでも40~60%に出現します。すでに2011年より、MPAによるステロイド抵抗性神経障害に対するIVIG治療の有効性に関する治験が始まっています。
 将来、IVIG療法が活動性ANCA関連血管炎に対しても保険適用治療として使用できるようになればと期待しています。
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